熊本地震から2年半以上がたちました。
まだまだ多くの被災者の方々が以前の暮らしを取り戻せていない状況です。
一刻も早くそういった方々が落ち着いて生活をおくれるようになる事を願っております。
私は大学時代には環境系のゼミに所属しており、エコロジー政策を専攻していました。
所属していたゼミの名物は、「ボランティア実習」といって全国各地の環境保全活動の現場へ実際に手伝いに行くことで環境問題とその現場で起こっている事の本質を学ぶというもの。
数ある実習先の中からたまたま私が選んだのは「阿蘇」そこで草原環境維持について学ばせてもらいました。
何となく参加したその実習で、私は阿蘇の雄大過ぎる自然と牧野(ぼくや)のおっちゃん達の人情に魅了されガッツリ阿蘇のファンになってしまいました。

すごくないですか?このカルデラ地形(^^)阿蘇をテーマに卒論を書くほどでした。w
大学を卒業してからも何度か阿蘇に足を運んだりしています。東京に異動してからは足が遠のいてしまってはいますが、いつかは阿蘇で暮らしたいう夢も持っています。
まだ他にもやりたい事が多く、まだまだ先にはなってしまいそうですが。
そんな阿蘇が2年前の地震で大ダメージを負ったのを見て心を痛めました。あの巨大な阿蘇大橋や国宝阿蘇神社が跡形も無く崩れ去っているのを目の当たりにしたときは衝撃をうけました。

これがぐっしゃぐしゃに崩れてしまうとは…想像もつきません…阿蘇地域が世界農業遺産に登録されて喜んでいたのに…
地震の前には火山が噴火したり、水害に遭ったりと農業・観光など多くの産業でダメージを受けた何かと不運が続いている阿蘇に対して、自分も何かしてあげなくてはと、会社の社会貢献プログラムを調べ漁り、寄付をしようと画策したりもしました。結局は個人としてのちっぽけな寄付しかできませんでしたが。
という事でそんな私が愛する阿蘇について記事をまとめていこうと思います。
基本情報は2007年に私が書いた卒業論文「私の心の中のカルデラ」から引用し、適宜最新情報が見つかった場合はUPDATEしていきます。
目次
阿蘇の概要
阿蘇地域は「阿蘇くじゅう国立公園」として国立公園に指定されており、自然公園法に基づいて環境省によって管理されています。
活火山と世界最大級のカルデラ地形で有名な阿蘇は、その地形の上に拡がる広大な草原環境美しさで毎年多くの観光客をひきつけている。このカルデラ地形は、9万年前に起こったとされる阿蘇火山の大規模な爆発によるマグマの噴出によって形成されたといわれています。
阿蘇の草原は、主に現在でも火山活動を続ける阿蘇五岳(中岳:標高1,506m・高岳:標高1,592m・根子岳:標高1,433m・杵島岳:標高1,326m・烏帽子岳:標高1,337m)を含む中央火口丘群の山麓とカルデラを縁取る外輪山の山麓に分布しており、その面積は15,300haで、日本最大の規模を誇っている。
- 行政:1市3町3村(阿蘇市、高森町、南小国町、小国町、産山村、西原村、南阿蘇村)
- 総面積(くじゅうを除く):54,368haそのうち国有地は4,939ha、公有地(市・県の所有)は23,402ha、私有地は26,027ha
- 人口:67,836人(H22国勢調査より)※H17が70,248人(H17,08,01住民基本台帳より)
- 気候:標高400mを越す山地型の気候で、やや冷涼で多雨
- 年間降水量:ほぼ全域が2,500mm以上(日本平均は1,600~1,700mm程度)
- 主な産業:畜産、米、野菜を柱とした農業、林業、観光業
- 主な農産物:肉用牛、米、豚、トマト、キャベツ、イチゴなど
- 牧野組合*数:171組合(環境省発行『阿蘇草原再生』より)
- 牛のいる農家の戸数:約1,300戸(平成16年度牧野組合調査結果より)
- 阿蘇を訪れる観光客数:年間約987万人(H28年熊本県観光統計より)※H16が約1,930万人(平成16年度県統計年鑑より)
*牧野(ぼくや)組合:放牧・採草など草の利用権を持ち、草原の維持管理作業を行っている団体で、集落ごとに組織されている。
ネットで最新の情報を拾っている中で目についたのは観光客の減少ですねぇ。いやー、、ほんと観光客の減りっぷりがやばいですね~。
2016年の観光客数がこんな感じなのですが、
地域 | 観光客数 | 前年比 |
熊本市 | 460万人 | 82% |
阿蘇地域 | 987万人 | 62% |
激減している熊本市とくらべてみてもはるかに激減してます。
収入もやばいでしょうねぇ。。今年は絶対に阿蘇に観光に行こう。少しでもお金を落とす!!自己満でもいいもんねw

この盆地がカルデラです。火山の噴火で山が吹き飛んでできる地形です。この盆地カルデラに水がたまってできるのがカルデラ湖といいます。北海道の支笏湖がそれですね!支笏湖も実習で行ったことがあるのですが、水の透明度が凄かった(^^)
阿蘇の魅力
草原と人の関係
日本の自然の特徴は、里地里山のように、人が利用することによって生物多様性が保たれてきた二次的自然が多い事です。
阿蘇の草原は「放牧」、「採草」、「野焼き」といった人々の生業によって維持管理されてきた半自然草地であり、その代表格です。その歴史の長さから「千年の草原」とも呼ばれています。
この草原は、利用形態や地形の違いにより大きく4つに分類されます。
- 牛馬の放牧に供する放牧地
- ススキやネザサといった草資源を得るための採草地
- 野焼きのみによって維持される草原
- 草原に点在する小規模な湿地と
これら4つに分類される草原は、それぞれ生物多様性が非常に高く、阿蘇地方には熊本県内の高等植物2,200種のうち1,600種が自生し、氷河期に大陸から入って来たヒゴタイやヤツシロソウなど貴重な大陸系遺伝種(25種)や国内希少野生植物種が生育しています。
鳥類では県内約300種のうち半数近くが阿蘇地域で確認されています。
昆虫では特にチョウ類が豊富で、県内に生息する117種のうち109種が確認されています。放牧が盛んなことから、オオセンチコガネといった糞虫の種類も豊富です。
一般的には降水量の多い日本では、自然草地は成立しないとされており、阿蘇の草原は昔から人が生業のために草原利用をするで維持されてきました。
こういった草原は人が利用をやめてしまうと、藪や林へと遷移していきます。阿蘇では、植林や草地改良が進み、草原そのものの面積が減少したことに加え、人による維持管理作業が放棄され、藪、林へと遷移する草原が増え、草原環境の劣化が深刻な問題となっています。
このままでは将来、阿蘇の草原環境は失われてしまう。そうなると、日本の里地里山の代表格としての阿蘇も生物多様性の豊かな環境も失われてしまうことになります。

阿蘇の特産の赤牛です。黒毛和牛と違って赤身が多く脂っ濃くないのが特徴で、噛めば肉の旨味が口中に広がります。特に放牧によって育てられた赤牛は余分な脂がすくなく、本当にいい味をだします。脂っ濃くないのに固くも無い。阿蘇の大自然をバックにバーベキューなんかで赤牛を食べた時には最高です。
過度な霜降り至上主義に一石を投じる存在と見てます。知らんけどww
草原環境
草原維持・管理の困難化
日本では、茅や資料等の草資源を確保するために、多くの半自然草地が管理されていましたが、生活様式や農業形態の変化から全国的には急減しています。
日本で一番広い面積にわたって草原環境が残されている阿蘇も例外ではありません。
肉用牛の生産の場として放牧利用される阿蘇の草原ですが、牛肉の輸入自由化による仔牛価格の低迷や、高齢化や後継者不足という社会的な問題から畜産離れが進み、放牧頭数が減少しています。
また、化学肥料や農業機械の普及によって、かつては堆肥や牛馬の資料として欠かせなかった草の需要が減り、草原環境を維持する意味が薄れ、地域全体での作業が必要な野焼きといった作業は継続するのが困難な状況になっています。
阿蘇の草原を管理する171の牧野組合では、平成10年から15年までの5年間に草原を利用する有畜農家の数は36%減少し、野焼き等草原管理作業に出役する入会権者の数は5%減少しており、約2割の牧野組合が草原の維持管理規模を縮小せざるを得ないとの意向を示している。
環境保全を現地の人々に押し付けるのはエゴ
阿蘇は水害・地震の被害だけでなく、前述のような高齢化・後継者不足のような根本的な課題に直面しているんです。

阿蘇の草原環境は生物多様性の観点でも里山文化の観点でも大変貴重なものなのですが、貴重だからといって地元の人々にその負担を押し付けてしまっていては本質を理解しない無責任な環境論者になってしまいます。
大学時代のボランティア実習から学んだ大事な事のひとつです。現地での実習を通して、いろいろな当事者と交流した事で見えてきた事です。
場合によっては地元の人でさえその環境の貴重さを理解しない、もしくは興味なかったりしますからね。
「生活のために作業してるだけ」という事ですね。たまたまその結果出来上がった環境が上記の観点から貴重だったわけです。
阿蘇の魅力を身体で味わうならボランティア
ボランティアで手伝った主な作業
- 輪地焼き(野焼きの準備の小規模な野焼き)
- 牧柵張り
- 草集め
2005年は環境省九州地方環境事務所所轄の阿蘇自然保護官事務所主催の「阿蘇の草原環境を学ぶツアー」、2006年は国立阿蘇青少年交流の家主催・九州地方環境事務所共催の「阿蘇の草原物語 秋編~環境ボランティアのすすめ~」に参加させてもらう形でボランティアをしてきました。

交流の家からの景色。壮大すぎますww
作業の合間合間に座学もあったりして、いろいろと学べたのですが、自分は雄大な自然の中で汗をかいておこなった作業が一番の充実があり印象に残ってますね!
いっしょに作業をして、現地の人の大変さもわかるけど、この美しすぎる阿蘇はこのまま残って欲しい!と無責任に思ってしまいました。w
なかでも一番印象に残っているというか、圧倒されたのは野焼き作業の一環「輪地焼き」という作業でした。

輪地焼きの作業中の写真です。すごい斜面ですね!
野焼きとは&野焼きの目的
3月には次々と阿蘇の牧野に火が放たれます。山肌を駆け上がる巨大な炎の迫力は相当なものがあります。当然危険を伴う作業で、ときどき死者がでてニュースにもなっていますね。
先に少し触れましたが、簡単に言うと草原を維持するために行うのが野焼きです。放っておくと藪化・林化してしまう草原地帯。林よりも草原の方が保水力に長けていて、生物の多様性も豊富だと言われています。
5年ほど前に怒った阿蘇の水害は草原環境が減少し、保水力が落ちたために大規模な土砂崩れや鉄砲水などを引き起こしたのではないかとも言われています。
昔は農業にうまく草原資源の利用が組み込まれていたので、生活をする=草原が保たれるという絶妙なバランスのもと阿蘇の環境は人と自然の関係のもと出来上がったのです。
野焼きを終えて春本番になると真っ黒な大地から緑が芽吹き、綺麗な花が咲く壮大な阿蘇の衣替えを見る事ができます。大変希少なミヤマキリシマというツツジの一種やオオルリシジミというこれまた希少なチョウの群生地としても阿蘇は有名で、それらは草原が藪化してしまうと生育できなくなってしまいます。
輪地焼きとは&輪地焼きの目的
春の野焼き本番に向けて行う秋の準備作業の事です。野焼きしたいエリアの外周をぐるっと幅5~10m程度の帯状に草を刈り、それを事前に燃やす事で防火帯を作るのです。
こうする事で野焼きを行った際に火が近隣の林や焼くつもりの無い所まで燃え広がるのを防ぐ効果があります。いわば小規模な野焼きのようなものですね。
火をつける作業は熟練した牧野のおっちゃんがおこない、ボランティアは竹でできた長い火消棒で焼けたあとを叩いて火を消したり、ジェットシューターを背負って放水して火を消す作業に専念しました。

ジェットシューターはマジで重いです。20Kg近くあるのではないでしょうか。めっちゃ水が入りますからね。ちなみにこのジェットシューターは何とⅡです。ww
これがなかなかの体力勝負でした。急斜面を水を背負って消化していったり、水を背負ってなくても足腰がかなり疲労します。これは高齢者にはかなりしんどい作業だと痛感しました。
ボランティア実習が秋に実施されたこともあり、本番の野焼きよりも規模の小さい輪地焼きしか経験できませんでしたがそれでも炎の大きさに恐れを覚えました。これが本番の野焼きとなるともっと大きな火柱が立ち、、、そうとうな光景が広がることでしょう。
離れていてもやれる事をやる
ボランティアでの作業は本当に体力的にきつかったのですが、牧野のおっちゃん達に感謝されて自分が人の役に立つ事におおきな喜びを覚えましたし、彼らといっしょに赤牛を食べて酒を飲んでワイワイやったのもマジで楽しかった。
また久しぶりに阿蘇にひょっこり訪れて彼らに会いたいものです。
今でも遠く離れた大好きな阿蘇に対して何かできる事はないかといつも考えています。
阿蘇のニュースには常にアンテナを張り、Facebookでシェアしたりしています。(Googleアラートでは「阿蘇」というキーワードがセットされています。w)
その一環としてこのブログでも阿蘇の魅力などについてまとめていけたら微力ながら力になれるのではと考え、今まさに昼休みに飯を食いながら、通勤時間などをりようしながら記事を書いてます。w

阿蘇は湧水でも有名で地域のいたるところからこんな感じでじゃぶじゃぶと清らかな水がわき出ています。のどがかわいたらちょっと道端の湧水を飲む感覚ですwwちなみにこの写真はお世話になった牧野のおっちゃんの家の庭です。庭からじゃんじゃか超絶美味しい水がわき出ているのです。
衝撃をうけましたw
今年ほんとうに阿蘇に行く機会があれば、地震後の草原や人々の様子なども記事にできたらいいなぁと思っています。
今回はこの辺で。
以上
*参考資料
- 「平成18年度 国立阿蘇青少年交流の家企画事業 阿蘇の草原物語 秋編~環境ボランティアのすすめ~研修ノート」 H18 国立阿蘇青少年交流の家
- 「阿蘇草原再生 千年の草原を子供たちに引きつぐために 阿蘇草原地域自然再生推進計画」 H17 環境省
- 環境省「阿蘇くじゅう国立公園阿蘇地域概要」
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